またの冬が始まるよ


至高への探求?



天にまします神の和子様、イエス・キリストの生誕を祝ったクリスマスを終えると、
日本では一気に年越しへの加速を迎えて慌ただしくなる。
クリスマスはどちらかと言えば“季節のイベント”だが、
年越しや迎春の方こそは、
民族的にも馴染みの深い いわゆる“神事”という色合いが濃く。
新しい年を迎えるためのいろいろが、
どうしても避けては通れぬとまでは言わぬながら、
それでも一応は引き継がれているところなぞ、それを如実に表していると言えて。

 “暦的には、月から太陽へ乗り換えたのに、
  それで微妙にずれてることも厭わないほどですしね。”

そうなんですよね。
新年への節目からして そもそもずれてるし、
初午とか中秋とか
本来の暦だともっと暖かいはずとかもっと涼しいはずという、
そういう誤差がある代物も多々あるんですが…って。
かっちりしたスーツにトレンチコートを重ね着た、
いかにもな戦うサラリーマン姿でありながら、
お顔の造作もくっきりかっちりと濃い目なら、
つややかで豊かな黒髪を頭頂にぎゅっと結い上げた、
ちょっとどころじゃあない異邦人調の佇まいにて。
JR立川の駅前へと降り立ったその人にも、
日本人の神道由来の風習は縁遠いそれであるはずなのだけれども。
まま、さすがにずんと長くこの国を観てきた存在でもあらせられるのだから、
そのっくらいは把握なさっているものか。
クリスマスに始まり、
そのまま冬の寒さにも負けずにお出かけしてねという誘導も兼ねているような、
キラキラ華やかなディスプレイの彩る駅前通りを
彼にすれば微笑ましげに、だがだが眼光厚く見回していらしたのは。
仏教の守護神にしてインドの古代神、
宇宙創造のブラフマーの化身こと、梵天様その人であり。
かつては、天界でも愛用しているガチョウさんに乗っての降臨をこなしていらしたが、
文字通りの盆と正月に付きものな天界渋滞に引っ掛かってしまう恐れからか、
今回は人世界の公共交通機関を使ってのお越しであるらしく。
この立川に降り立たれたということは、
彼の守護する釈迦如来様、
見守っていたころからの呼び方でシッダールタ様への御用だということらしいと伺えて。

 「…おや。」

きんと見張られた双眸の目ヂカラは、
さすがは宇宙全般をも把握なさってたという謂れのままなのか、
位置としては真後ろにいた誰かさんの気配をそりゃああっさりと掴まえてしまい。
つややかな長い髪を邪魔にもせずに振り返ると、
人ひとりが余裕で隠れて入れるだろう太い柱の陰へ回り込み、

 「お久し振りですね、イエス様。」

流れるようにとはこのことか、
あまりになめらかで迷いのない進軍であったことが
こそりと気配を殺して潜んでいた側に
“ばれた、逃げなきゃ”という動作への判断を遅らせたらしく、

 「あわわ…。」

ひゃあびっくりしたと言わんばかりな声を発したのは、
何で判ったんでしょうかという段階の驚きに
その身を固まらせていたイエス・キリストその人で。
暖かい日和続きだったのが、昨日今日と少し寒いせいだろう、
赤いダウンジャケットにセーターの首周りにはスヌーヴを巻き、
ボトムはツイードらしいパンツとレッグウォーマーという、
重ね着での防寒態勢もなかなかに充実しており、
そういった姿だけならば、
今時の日本にはどこででも見受けられよう、
ちょっと気の利いた格好をしておいでの 若いのの年長さんというところだが。
周囲に多数行き来している日本人からは随分と浮いている、
彫の深い面差しや 腰高でスタイルバランスが異なる肢体といい、
それだけだって十分に特定しやすい特徴なその上に。
天界関係者にはどれほど抑制されていたって判る 特殊なオーラが隠しきれていないし、
自身が信奉する仏教の始祖、ブッダとバカンス中だという事情を除けても、
梵天氏にあっては特別視してしまってしょうがない対象な尊なだけに。

 「ここまでの至近に居ながら
  気づかずにいろという方が無理な相談というものですよ。」

聞きようによっては求愛した相手へでも捧げていいような
そんな甘やかでまろやかなお言葉を、
この人出の中で臆面もなく言ってのけられるのも、
彼が神格持つ存在で、誰を憚る必要もない身だからであろうけど。
そういう事情が判らない人らには突拍子もない言い回しなんですてと
人界の事情を持って来たがゆえの頭痛を催しつつ 諫められるブッダほど、
素早い応用が利く、
若しくは機転を回すことが出来るだけの度胸はまだ足りなかった彼だったのか、

 「あのあの、えっと…。///////」

うわ、見咎められちゃったよどうしようという混乱の動揺に浮足立ったそのまま、
恐らくはその“動揺”の根源だろう、
小さなツールをジャケットのポケットへと収め直したイエス様、

 「ぶぶ、ブッダのところへいらしたのでしょう?」
 「ええ。あ、それでこんな寒空に放り出されてしまわれたのですか?」

そうですよという応じと並行するほどの素早いお察し。
自分が訪のうことを告げると、何を警戒するものか、
必ずイエスを同席させないように計らうブッダでもあり。
今日もまた、その伝で出かけて来てと言われてしまった彼なのだろかと、
そこはあっさり察した梵天だったのだが、

 「いえ、そういうんじゃなくて…。」

ブッダが意地悪をしたような言いようはさすがに否定したかったか、
そんな運びではないないと、イエスも素早くかぶりを振ってから、

 「私もこれから向かうところがありまして。」

なので失礼いたしますと、素早くもぐもぐ言いつのり、
あわあわと急ぎ足で立ち去ってしまわれる。
人懐っこくて、
普段は梵天とも何という障りもないままに接しているはずの彼にしては、
いかにもな判りやすさでの拙い所業、
随分とよそよそしいのが気になりはしたが、

 「…まあ師走ですし。」

彼もまた、師弟関係となる存在を多々持つ身だ、
逢っておく人もいて忙しいのかもしれないしと、
様子がおかしかったことが気になりつつも、
自身の所用の方を片づけてしまおうと駅の外へと
颯爽とその身を返した、史上最強の仏教守護様だった。






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 *取っ掛かりだけになっちゃいましたね。
  思いついたはよかったのですが、ちいと尺を取りそうなネタだったもんで、
  バタバタしている中ではなかなか書けずにおりまして。
  (実はクリスマスネタだったんですがね…。)
  年末と年明けの空隙に書き上げられればいいのですが。


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